中空の桂について書く前に、「鬼手60」について。
7七同飛成、4四桂と並んで、藤井君の妙手トップ3を選ぶならこれ。
7七同飛成が「攻め」の妙手、4四桂が「攻防の妙手」なら、
5八金は、なかなか出ない「守り」の妙手。
あり得ないと思う、あの着想は。
解説のプロ棋士も、
「相当頭が柔らかい」「思いつかないし、思いついても躊躇する」
と言っていました。
しかもですね、
この5八金の三日後に、中空の桂4四桂。
どうやったらたったの三日で、傾向が全く違う絶妙手二つが出るのやら?
さて、「鬼手62」、4四桂ですが、
7七飛成と4四桂の凄いところは、数手前から読んでいた、ということです。
7七飛成は、プロの高段者ならその場面になれば指せるそうですが、
藤井五段(当時)は明らかに、少なくとも6三同金の時点では読んでいた。
そして4四桂には、数手前から読んでいた証拠があります。
「その桂は4手前(89手目)に相手から取ったもの」だからです。
なのに、解説していた高段者たちは、指されるまで気づかない。
なぜ7三の地点で桂馬と金を取ったのかわからない。
対戦相手の広瀬八段も気づかない。
女流プロの人なんて、
自分が美人女流プロとしてお化粧ばっちりで来ていることを忘れ、
「桂馬・・、歩じゃなくて・・」と阿呆のようにつぶやいてから、
解説しようとする隣の高段者に対して、
「先生、そんなことさっきまで言ってなかったじゃないですか」
とツッコんで立場をなくさせてしまう。
これこそが絶妙手。
「何もないところにいきなり現われる」という意味では、
羽生さんの5二銀に比肩される「作品」だと思います。
一生に何度も見られるものではないと思います。
いち将棋ファンとして、幸せを感じます。