数学帝國への逆襲 (西春自習質問教室のブログ)

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中国史17→18.モンゴルの蒼き狼

国史17→18.モンゴルの蒼き狼

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モンゴルでは国のことをウルスと呼ぶ

チンギス・ハン、本名はテムジン。(漢名鉄木真)
古い時代の日本ではジンギスカンと呼ばれ、羊肉料理のことを指す。

史上最大領土を達成したチンギス・ハンの戦争目的とは何か?
「全ての女にモンゴルの子を産ましめよ」である。
(植民地まで含めると、史上最大領土は大英帝国

少し理系の話をしよう、分子遺伝学だ。
ミトコンドリアは卵細胞を遺伝するので、父親からは伝わらない。
母系を追跡することができて、その先を「ミトコンドリアイヴ」と呼ぶ。
またY染色体は男性にしかなく、父系先祖を追跡することができる。
行き着く先を「Y染色体アダム」と呼ぶ。
この二人が人類の祖先ではないが、両者とも韓国、じゃなくてアフリカだ。

最新の研究によると、世界で約1600万人の男性が共通の祖先を持ち、
そのY染色体を追跡すると、モンゴルに端を発しているという。
チンギス・ハンの子孫というわけだ。(男女合わせて3千万人)
晋の武帝を変態オヤジと呼んだ私だが、ここまでくると善悪を超え、
「生命エネルギーの塊」としか、表現のしようがない。

一部族の名に過ぎなかったモンゴルにテムジンが出て諸部族を統一し、
クリルタイ(長老会議みたいなもの)で、
チンギス・ハン(成吉思汗、太祖)の尊称を得る。(1206)
その後、燕京を攻略、西遼を併合して西夏も滅ぼした
金の滅亡はチンギス・ハンの死後になる。

ひとつヒットとしては、
燕京を陥落させた時(1215)、遼の皇族の耶律素材を手に入れたことで、
モンゴル人が、中国人を皆殺しにしてここで羊を飼うと言い出したのを、
耶律素材が必死になって農耕の意義を説き、止めたことがある。
李と張と陳と、あと何だったか、その姓を持つ者は殺す、という凄い案だ。
実行されたら、世界史が変わったどころじゃなく中国が消滅していた。

①なぜ強いのか。

北方騎馬民族は、騎馬で羊を追うことが日常、
即ち国民皆兵、しかも毎日戦闘訓練だ。
中国の農耕民族とは、人も馬も鍛えられ方が全然違う。
夕方に練習する野球部が、一日中野球のプロに挑むようなもの。

ただしそれは、死亡率が高い、という意味でもある。
だから子供をなるべくたくさん作らねばならない。
チンギス・ハンの戦争目的も、良く言うならそれで、
女の子を襲うことは悪ではない、子供を作らないことが悪なのだ。

さらにモンゴルに限らず北方騎馬民族には、父親が死ぬと、
実母以外の夫人はそのまま息子の妻になる、という風習がある。
中華および日本では考えられない風習だが、(烝という)
これもつまり、一種の人口増加策ということだ。

思い出してほしい、
唐の高宗は太宗の夫人(則天武后)を皇后にし、
玄宗は息子の夫人(楊貴妃)を横取りした。
中華皇帝の彼らにも、鮮卑族の感覚が残っていたというわけだ。

ゴビ砂漠
ゴビ砂漠、というのは正確ではない。
シルクロードの映像をテレビで見た人は、
中国北西地方にサハラ砂漠のような砂漠が存在しないことはわかる。
「ゴビ」は「石ころ」の意味で、正しくは「礫漠」と言うべき。
そういうところを騎馬で移動すれば、自然に鍛えられる。

それにしても、なぜモンゴルだけが大帝国を、という疑問には、
モンゴルの学習能力の高さが答えだと思う。

騎馬民族の弱点は、攻城戦だ。(万里の長城はそのため)
それを、西夏や金と戦いながら克服してしまった。
唐代に発明された火薬を、戦争兵器に改良したのは金のようだが、
火薬を利用した攻城戦を身につけたモンゴルは、無敵になった。

つまり、元寇は2回でラッキーだったということだな。
文永弘安の役は、台風が神風になって撃退したことになっているが、
冷静に考えたら、もともと騎馬民族は舟の移動が苦手なのだ。
病人は続出するわ、待ち構えたところに上陸するわ、だったらしい。
(なのに弘安の役は15万前後の大艦隊。計画自体が無茶)

フビライ・ハンは3回目を計画していた。
学習して、舟での輸送と海戦を訓練した上で、のことだ。
弘安の役の直前に、元は南宋を滅ぼしているが、
南宋戦も、最初は苦戦した田んぼや湿地帯の戦いを克服している。
南宋の遺臣から、次は日本の番だという警告書が来たくらいだ。
実現したら、両国国技館で行われるのはモンゴル相撲だったかも。

その後元は、ベトナム侵攻も失敗している。
攻城戦、湿地帯戦、と克服したモンゴルだが、
海と熱帯雨林は、学習能力の限界を超えたようだ。
モンゴルに勝ったのは日本でもベトナムでもない、地球である。

②分裂グセがあるのはなぜか。

騎馬民族は、団体で羊を追い、戦闘も団体でする。
父親が死ぬ頃には、その長男次男は独自の団体を形成している。
したがって父親の遺産は、末っ子を中心に分配される。
これが「末子相続」というもので、家長制度というわけではないので、
長男次男が離脱し、分裂するのも「いつものこと」というわけだ。

だいたいチンギス・ハンが長男ジョチに下した命令は、
「ここから西を攻めよ、攻め取った地は全ておまえのものだ」
というもので、周の王室が斉や燕に言ったことと変わらない。

ジョチの名の意味は「旅人」「客人」。
テムジンの妻も拉致されたことがあり、その時の子と言われている。
ジョチが死に、その子のバトゥが継いだのだが、(バトゥの西征
ポーランド・ドイツ連合軍とのリーグニッツの戦い(1241)は、
別名ワールシュタット(死体の山)の戦いと呼ばれ、
後々までヨーロピアンにモンゴルの恐怖を植え付けることになった。
だから我々は彼らから「モンゴロイド」と呼ばれるのだ。

ただ、ヨーロッパにも日本と同じように神風が吹く。
オゴタイ・ハンの死で、バトゥが引き返してしまったのだ。
(太宗オゴタイ・ハンはチンギスの第3子、末子のトゥルイが譲った)
これも、そのままヨーロッパを攻めていたら、世界史は変わっていた。

そんな周春秋レベルの最も野蛮な国に、
国史上最高の文明国宋は、滅ぼされることになる。