数学帝國への逆襲 (西春自習質問教室のブログ)

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閃きとは何か

「閃き」とは何か

カン違いしている大学、問題集、先生、生徒が多いので、
閃くというのは何か、を書いておこうと思う。

ちょくちょく私は、問題集の解答とは全く別の解き方を載せる。
つまりそれは、私がその問題を見たときに「閃いた」わけだが、
努力もしない数学と向き合わない連中ほど、
「そんなこと閃かない」と言う。
閃くの閃かないのと、飛天御剣流でも習得したいのか?

はっきり書いておく。
高校数学、特に数ⅡBまでにおいて、閃きなんて要らない。
真面目に勉強し、応用力をつけさえすれば、解ける問題ばかりだ。
そんなものがなくても、行きたい大学には行ける。
閃きが必要な機会があるとするなら、
東大、京大、医学部レベルを受験しようという場合のみ。
上記は「できるヤツら」をさらに選抜しなきゃならないからな。

それでも、ということで今回は書くが、
凡人凡夫が「閃き」を身につけようというなら、次の二点に留意せよ。

1.基本と応用をとことん磨く過程で身につく。
スタンダードだのメジアンだのの問題集を隅々まで何度もやって理解する。
その程度ができない分際で、何が閃きだ。
そうすれば、たまに出る難問にも、ひょっとしたらこれで、
ということもあるかもしれない。

2.なるべく楽をして解いてやろう、と思う過程で閃きは出る。
私のような純粋理系は、いつもこれだぞ。
楽をすることとサボることは違う、楽は楽しいと書き、効率に繋がる。
真っ正面から解かなくてもこうすれば、と考えることが工夫になるのだ。

もちろん、急がば回れの教訓通り、失敗して計算し直すこともある。
それも修行のうちと考え、やり直すことを厭わないことだ。

以上が、凡人凡夫が閃く場合だ。
さてそこで訊くが、閃いたか? 1と2が相反することに。
1は究極のところ、真面目にやれ、と言っている。
2は、語弊はあるが、不真面目にやれ、と言っているのだ。

この程度のことが両立できないなら、
最初から、閃きなんて期待しないことだな。

そしてもうひとつ書くのだが、
まさか君たちは、高望みしてはいないだろうな?

天才の閃きが知りたいなら、将棋を覚えて私の解説を見てくれ。
藤井君の5八金左や4四桂なんて、
私がこの先、全てを放棄して将棋に没頭しても、頭に浮かぶことはない。
ケタが違うのだ、しかも1ケタや2ケタではなく。

もうひとつ、ケタが違う閃きの、わかりやすい例を挙げよう。
「1729」という数字を見て、どう思う?

1918年にハロルド・ハーディ(この人自身ニュートンの再来と言われた超天才)が、
入院中の弟子のシュリニヴァーサ・ラマヌジャン(インド人)を見舞った時、
「乗ってきたタクシーのナンバーは 1729 だった。たいしたことのない数だ」
(数学者を乗せるのだから、もう少し気の利いた数字ならいいのに、という意味)
と言ったら、ラマヌジャンは即答、
「そんなことはありません先生。それは3乗たす3乗で二通りに表せる最小の数です」

1729 = 9³+10³ = 1³+12³

これが、天才の閃き、だ。
以来、1729は数学者の間で「タクシー数」と呼ばれ、
他にどんなタクシー数があるのか、その研究だけで一生を終える人すらいる。
(4乗5乗の場合とか、三通りに表したりとか、当然コンピュータを駆使)

君たちは、こんなものを身につけたいのか?
違うだろうが。

君たちの受験に7七同飛成もタクシー数も要らない。
だったら、せいぜい上に書いた二つを日々心掛けることだな。
断言する、他に方法は無い。
藤井君やラマヌジャンのそれは、神が与えたものだ。

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左がラマヌジャン、右がハーディ

(注)シュリニヴァーサ・アイヤンガー・ラマヌジャンについて

人類史上最高の天才は誰か、という問いに、
ニュートンアインシュタインの有名どころを差し置いて、
ちょくちょく名前が挙がる天才中の天才。

デビューは、上に書いたゴッドフレイ・ハロルド・ハーディに送った手紙だ。
無名のインド人が数式をいくつか書いて送ってきた手紙を、
ハーディは一度はゴミ箱に捨て、すぐに拾って見直した。
その中に、自分が見つけて未発表の公式が書いてあったからだ。

どのようなトリックを使ってもあり得ないことに気づいたハーディは、
インドからラマヌジャンを呼んで、自分の生徒ということにする。

以来、弟子のラマヌジャンが見つけた公式を、
師のハーディが証明する、という関係になった。
ラマヌジャンにそれを言うと、
「だって先生、証明なんてしたら美しくないです」と言われるからだ。
日本の大学なら、あっさり落ちること請け合いだ。
(インドの大学もラマヌジャンは退学になっている)

これも繰り返すが、ハーディはニュートンの再来と言われた天才だ。
彼自身、いくつもの飛び抜けた数学の業績がある。
その天才が、ラマヌジャンの助手のような立場になった。
ハーディは、ラマヌジャンが100点なら自分は25点だと言っている。

ラマヌジャンの公式が全て証明されたのは1997年、
半世紀以上先を進んでいるラマヌジャンに、ハーディが追いつけないのも無理はない。
証明じゃなく、なんでこの式がわかったのか教えてくれ、と言っても駄目。
ラマヌジャンは困って、女神様が教えてくれた、と言うからだ。

生徒諸君、これが天才というヤツだ。
ラマヌジャンは私生活には恵まれず、
9歳で嫁に来た妻(インドだからね)と母親との嫁姑争いに悩まされ、
イギリスの食べ物や風土に合わず、32歳で世を去る。

ただ、晩年のハーディは言う、
自分の一番の功績はいくつもある数学上の発見ではなく、
ラマヌジャンを見つけたことだ、と。

 

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